税務調査の現場では、法人税、消費税、源泉所得税そして印紙税の同時調査が行われていますが、限られた調査日数で申告内容の確認を行うことは実務上難しい状況にあると思います。
特に争点を絞るには時間が足りない環境の中で、国税通則法の改正により調査における証拠の収集・保全と的確な事実認定が明文化され、事実関係をいかに効率的に把握し問題点を抽出するかが調査官の宿命となってきているようです。
前回は債務の確定に焦点を当てて問題点の背景や事実関係を踏まえた税務調査事例を解説させていただきました。
今回は引き続き債務の確定が原因となった否認事例や最近の裁決事例や判例の中から、事実認定の正確性から明暗が分かれた事案、さらには講演会等で私が解説をしている税務トラブルについて、できる限り対話方式により分かりやすく表現してみました。
内容の大部分は国税不服審判所の裁決事例や裁判所の判例が基礎となっていますが、中には自分自身が体験した最新の調査事案も盛り込ませていただいております。
国税通則法の改正後は、調査における証拠の収集・保全と的確な事実認定
が明文化されたことにより、契約書等の内容の精査や事実関係の情報収集に多くの時間を要し、更正処理を前提とした修正申告の勧奨が行われるようになりました。
税務調査の現場では、契約書の内容が抽象的で、役務の対価に関する記載が
不備のため経費等が否認されるといった場面も多々見受けられる等、いわゆる契約を巡る税務トラブルが増加傾向にあると思われます。
また、債務の確定を巡り解釈の相違も目立って来ました。
そこで、本書では税務調査事例を通して、問題点の背景や事実関係を踏まえた調査展開を明らかにし、
また法的解釈も交えて解説をしていきたいと思います。
【税理 2012年9月号にブックレビューが掲載されました。】
昨年12月成立の平成23年度税制改正では国税通則法が大幅に見直され、納税環境整備の一つとして税務調査手続きが改正された。
納税者の立場、権利に配慮した改正ともいわれるが、依然、税務調査に苦手意識を
抱く納税者、税理士は数多い。
税務調査関連の出版物がよく読まれているのもそのためであろう。
しかし、本書はそうした税務調査手続きを解説したものではなく、好評だった前著「ザ・税務調査」をバージョンアップ、
調査官の目線で、現場の感覚をまとめたものである。
前著にはなかった「契約をめぐる税務トラブル」等を新たに追加しているが、そこではいわるゆグレーゾーンと呼ばれる分野に視点を据え、調査官と(経理)担当者の会話を通じて、調査官がグレーゾーンをどのように解釈し、アプローチしていくのかも明らかにしていく。
会話スタイルのため、実際の調査を感じさせる箇所も多い。
そうした雰囲気を感じるのも、税務調査の基本的なスタンスとなるヒト・モノ・カネに目線があるためであろう。
それはまた、事実認定の判断材料になるきわめて重要な部分を占めると指摘し、調査官からの指摘項目は
原点に立ち戻り、何が問題とされたのかを振り返る姿勢も必要だと示唆。そのためには、指摘事項を否認事項と
短絡的に受け止めることをせず、事実関係の確認を行うことが大切だと指摘して、第三者である税理士の視点の活用も示唆している。
本書の構成は、業種目別、勘定科目別の調査に加え、契約をめぐる税務トラブル、税目別調査の各編から
なっているが、新しく追加された契約をめぐる税務トラブルでは、脱税事件として報じられるケースが多い業務委託費と
交際費の関係、寄附金認定、給与認定といった最近の調査で指摘されがちな問題にも触れている。
調査官向けという印象もあるが、納税者側からすれば調査官の視線、考え方等を学ぶ一冊となる。調査官、納税者、
税理士等がそれぞれの立場から読んでも、実際に役に立つ内容が多い。調査の内容、目的を知るためにも一読を
薦めたい一冊である。